今日の一品(微怪談)
1本のビデオテープをみつけた。懐かしのVHSである。
このテープは、長らく掃除をしていなかった自宅の押し入れの隅に置かれていた。
ラベルも貼っておらず、真っ黒なテープ。
見てやろうにも、うちにVHS対応のデッキはない。
なんとかみる方法はないか、部屋のレコーダーを色々いじくる。
すると、何故か本体の底面に緑色の光が点滅しており、それを押すとビデオテープの挿入口が開かれた。
なんの疑問もなく、私は喜んでビデオテープをセットする。
間もなくテレビ画面が切り替わり、ビデオが再生された。
映像は古く、色も褪せてきていたが見られないことはない。
場所はわからないが、どこかの街中の料亭のようで、入り口に立って店の中を撮影しているらしい。
会計のカウンターがあり、その左奥には客席に繋がっている廊下が見える。
聞こえてくる息遣いで、撮影者は男であることはわかる。それにしても呼吸が荒い。
そして、入り口に男が立っているのに、店の人間が出てくる気配もなく、ただ静かである。
まもなく撮影者は動き出す。
土足禁止と書かれた板を無視して、靴のまま店に上がり込んだ。
すると、さっきまでいなかった人間が廊下の前に立っている。
いや、立っているというより、膝立ちの状態で身体の力が抜けているような…。
首もだらしなく、右側に垂れている。見たところ歳は40代後半だろうか。胸に名札らしきものをつけているので、どうも店員のようだ。
撮影者はその店員に向かって、すみません…。と話しかけた。
だが、店員に反応はない。よく見ると白眼を剥いている。
しかし、撮影者は気にすることなく、店員を押しのけて廊下を進む。
すると後方から、
おきゃくさまー!
という怒ったような声。
撮影者が振り向くと、さっきまで項垂れていた店員は消えていた。
撮影者は次第に、さらに息が荒くなり、何事かぼそぼそ呟いている。
よく聞いてみると、
おかあさん…おかあさん…
と言っている。
ここで私が感じたのは、心細くなって母親に助けを求めているのではなく、母親の身に何かしら危険が迫っているということ。
いくつもの部屋の襖を通り過ぎ、最初から場所がわかっていたように一つの部屋の前に辿り着いた。
襖を開けると、軽く十畳以上ある和室。
部屋の真ん中に大きな四角いテーブルがあり、向かって右側には二人の人間が座っている。
手前に座っていた人間は、撮影者が勢いよく襖を開けたことに驚いたようで、反射的にこちらに振り向いた。女のようだが、鼻から下を白い三角巾のようなもので隠している。
奥の影は、その女と被って見えない。
突然女は立ち上がり、撮影者に向かってくる。右手には大きなナタが握られている。しかもそのナタは、既に血まみれだ。
それに気づいた撮影者はとっさに奥の人影を見る。そして、その姿を見た途端、絶叫し、カメラは床に落ちて電源が落ちてしまった。
その奥に座っていた人影は、一見ただフードを目深に被った女性にみえたが、それはフードではなく白い布だった。
そして、そのかけられた白い布は、人間の頭の形ではなく、平面。
鼻から上の部分を綺麗に切り落とされ、その上にかけられているようだ。
不思議と血の色はなく、布も真っ白のままだった。
私は、この顔の半分を落とされた女性が、撮影者の母親だったのだと思うが、これがどういう物語なのかまったくわからない。
まあ、夢ですからね!